俺人〜OREGIN〜俺、バカだから人工知能に代わりに頑張ってもらうまでのお話

このブログでは人工知能(AI)の多角的な側面を深く掘り下げ、その理論と実践の両面を探求していきます。データから知見を引き出す手法の解説に加え、AIが社会に与える影響や、健全な発展に向けたガバナンスの重要性にも焦点を当てます。視覚情報や言語情報、その他の多様なデータを活用した予測モデルの構築を通じて、AIがどのように現実世界の問題解決に貢献できるかを調査・発信していきたいと思います。

国土交通政策研究所「交通分野におけるAIガバナンスの制度構築の現状」を読み解く:EU、ドイツ、英国及び日本における交通AIガバナンスの現状

今回は、国土交通政策研究所から公開されている「交通分野におけるAIガバナンスの制度構築の現状~EU、ドイツ、英国及び日本における交通AIガバナンスの現状」を読み解き、そこから得られた知見を自身の学びとして整理しました。
分野横断的なAIガバナンスにおいては、EUとドイツのハードロー、英国と日本のソフトローという異なるアプローチが見られますが、自動運転車の領域ではいずれの国も法的拘束力を伴う規制へと進んでいるようです。

資料へのリンク → https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2025/83_9.pdf

はじめに

情報通信技術の進歩に伴いAIの技術革新が急速に進展し、交通分野においても「車両の自動運転」や「AIオンデマンド交通」など、課題解決を目的としたAIの活用が進められています。AIの安全で公平な利活用にはガバナンスが不可欠であり、各国政府は「AIガバナンス」に関する原則の公表や制度構築を推進しています。本稿では、国土交通政策研究所が欧州(EU、ドイツ、英国)と日本を対象に、分野横断的なAIガバナンス制度と交通分野の現状を調査された結果に基づき、特に自動運転車に重点を置いてその内容を整理されています

EUの動向

AI戦略策定の経緯と交通分野の位置付け

欧州委員会は2018年に「欧州のためのAI」を発表し、AIの倫理的・法的枠組みの確保を目指しました。2021年にはこれを更新し、AIのリスクに対処する規制の枠組みを提案しています。この計画において、交通・モビリティ分野は「影響力の大きい分野」と位置付けられ、「AIを通じてよりスマート、安全かつ持続可能なモビリティを実現する」という目標が掲げられました。航空、鉄道から道路交通に至るまで具体的な取り組みが進められています。

AI法による交通AIガバナンス構築

2024年5月に世界初の包括的なAI規制であるAI法が採択されました。同法はリスクレベルに応じてAIシステムを4段階に分類するアプローチを採用しており、交通インフラは「ハイリスクAIシステム」に含まれています。これにより、リスク管理やデータガバナンスに関する厳しい要件が課されますが、自動車等の型式承認規則の対象となるAIシステムについては、AI法が直接与える影響は限定的であると考えられています。

ドイツの動向

AI戦略策定の経緯と交通分野の位置付け

ドイツ政府は2018年に「国家AI戦略」を発表し、AI研究開発における国際的な中心地としての地位強化を目指しています。交通分野はヘルスケア、気候変動、農業等と並ぶ「重要分野」とされ、特に自動コネクテッド・ドライブ技術が中核技術として重点的に扱われてきました。複数の政策文書を通じて、自動運転技術の開発・普及から法的枠組みの整備までを推進しています。

ドイツの交通AIガバナンス

ドイツの交通AIガバナンスは自動運転に関する法規制が中心です。2017年には世界で初めて自動運転機能付き自動車の運転手の権利と義務を法的に定め、レベル3及び4の自動運転車両が走行可能な条件を整備しました。さらに2021年7月には自動運転法が施行され、レベル4の自動運転車が国内の限定空間で利用可能となっています。

行政機関、事業者等の対応

深刻な人手不足を背景に、公共交通分野での自動運転活用が求められ、複数の実証実験が進められています。一方で、2022年に施行された関連政令により、承認プロセスが煩雑化・長期化したことで、実証プロジェクトの加速が妨げられているとの意見も存在します。データ関連の法規制、特に2025年施行予定のEUデータ法は、公共交通関係者にとって有益であると考えられています。

英国の動向

AI戦略策定の経緯と交通分野の位置付け

英国は2017年の「産業戦略」でAIイノベーションの中心地となることを目指し、「AIとデータ経済」「モビリティの未来」を重要目標に含めました。2023年には「AI規制に対するイノベーション推進アプローチ」を公表し、イノベーション支援のために「新たな法律を導入する予定はない」と明記し、ソフトロー・アプローチを明確にしています。

英国の交通AIガバナンス

英国では早期から新たなモビリティサービスを促進するための法規制や実施規則が展開されてきました。法的拘束力のないガイダンス文書を公表する一方で、2018年と2024年に「自動運転車法」を成立させています。特に2024年5月に成立した法律では、公道走行のために厳格な安全性確認と認証手続が義務付けられました。これはレベル4を想定していると解釈されています。

行政機関、事業者等の対応

EU離脱により、EUレベルの規制が英国の交通AIガバナンスに直接影響を与える可能性は少ないです。国レベルでは、2018年と2024年の自動運転車法がプロジェクトにとって重要とされています。地方の公共交通では、運行費用削減を目指し、自動運転車を組み込む実証実験が実施されていますが、資金調達の問題や規制要件の厳しさから、プロジェクトの遅延や運行停止に至った事例も報告されています。

日本の動向

AI戦略策定の経緯と交通分野の位置付け

日本のAI戦略は、AIの社会実装を促進することを目的とし、法的拘束力のないガイドラインを基本とする「ソフトロー・アプローチ」を採用しています。2024年4月には総務省経済産業省が「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表しました。交通インフラ・物流は優先領域の一つとされ、「人的要因による事故のゼロ化」などが目標です。日本は柔軟にルールを更新する「アジャイル・ガバナンス」の実践を志向しています。

日本の交通AIガバナンス

日本では、2019年の法改正により自動運転レベル3に対応した制度が整備され、さらに2022年の道路交通法改正で、特定の条件下におけるレベル4の自動運転車両の公道運行が解禁されました。この改正ではレベル4の自動運転が「特定自動運行」と定義され、許可制や運行主任者の義務などが定められています。

各地域・国の比較

AI戦略及びガバナンス

AI戦略の法的拘束力については、EUとドイツが「ハードロー」を、英国と日本が「ソフトロー」を基本としています。EUは信頼できるAIの構築を、ドイツは競争力向上を、英国はイノベーションの中心地となることを目指しています。日本は社会実装の促進を目的とし、リスク対応との両立を目指す「アジャイル・ガバナンス」を重視しています。

交通AIガバナンス

交通AIガバナンス、特に自動運転関連の制度整備では、国によるアプローチの違いが見られます。ドイツでは2021年にレベル4の限定空間での利用が可能となり、英国では2024年に成立した法律の施行が待たれています。日本では、2022年の法改正により2023年4月から特定の条件下でレベル4の公道運行が解禁されました。

おわりに

今回、EU、ドイツ、英国、そして日本におけるAIガバナンスの多様なアプローチを読み解くことを通じて、技術革新を促進しながら、いかにして安全性や公平性といった価値を担保していくかという課題を再認識しました。

特に、分野横断的なAIガバナンスではハードローとソフトローという異なる道を歩む地域・国がある一方で、交通AIガバナンス、とりわけ自動運転車の領域では、いずれもが法的拘束力を伴う規制へと収斂していくという動向は、非常に興味深いものでした。これは、技術が社会に与える物理的な影響の大きさを反映しているように感じます。

この分野の動向は非常に速く、今後も継続的に最新の情報を追い、表面的な機能だけでなく、その背景にある規制の枠組みも一緒に理解していく必要があると感じました。引き続きウォッチしていきたいと思います。