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このブログでは人工知能(AI)の多角的な側面を深く掘り下げ、その理論と実践の両面を探求していきます。データから知見を引き出す手法の解説に加え、AIが社会に与える影響や、健全な発展に向けたガバナンスの重要性にも焦点を当てます。視覚情報や言語情報、その他の多様なデータを活用した予測モデルの構築を通じて、AIがどのように現実世界の問題解決に貢献できるかを調査・発信していきたいと思います。

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以上

 

 

 

IPA「重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド Ver.1.1」を読み解く:利便性と自律性の両立およびデータ連携におけるセキュリティ要件

今回は、2026年7月に更新されたIPA「重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド Ver.1.1」について、その内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド | 社会・産業のデジタル変革 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

出所:重要情報を扱うシステムの要求策定ガイド Ver.1.1

1. 重要情報を扱うシステムの要求策定ガイドについて

重要情報とは、国民生活や経済活動の基盤となるサービスで使われる情報のうち、その情報の改ざん、破壊、紛失、または利用不能によってサービス提供に支障が生じ、国家および国民の安全や秩序を損なう恐れがあるもの、あるいは経済活動への影響が特に大きいものと定義されています。

これからの重要情報を扱うシステムには、最新技術を活用し環境変化に追随するための「利便性」と、予測し得ない非平常時においてもシステムの運用を統制し続け、結果責任を全うするための「自律性」の両立が強く求められます。

本ガイドの目的は、管理者がこれら二つの観点からシステムの特性を踏まえてリスクを分析し、自ら対策を策定できるようにすることとされています。

既存のセキュリティ基準等を補完する位置づけであり、それらと併用されることを前提とされています。

2. 本ガイドの利用方法

要求項目の策定にあたっては、システムを取り巻く環境の変化を捉え、問題・リスクと対策の因果関係を樹形図の形式で体系的に整理するプロセスに重点が置かれています。

具体的な策定ステップとして、まず機密性・完全性・可用性、ビジネス環境、技術環境等の9つの観点からシステムを評価し、優先的に享受したい内容を見極める「システムの特性評価」を行います。

次に、整理した内容に基づき、自律性の観点では対処すべき問題・リスクを、利便性の観点では享受すべき要素を樹形図から整理する「問題・リスク/利便性要素の選定」を進めます。

最終的に、選定した項目に紐づく対策を目的と照らし合わせて検討し、必要な要求項目を定めます。

自律性確保のための要求項目は、データ、運用、ソフトウェア、ハードウェア、データセンター・通信の各構成要素ごとに整理されています。

また、利便性確保については、オンデマンドでの設定やリソース共用、マネージドサービス、サービスの継続的進化といった要素が提示されています。

3. データ連携における留意点

クラウドを含む複数のシステムを組み合わせて利用する場合、データの保存や処理の有無に応じて3つの連携パターンが想定されています。

各パターンにおいて、ストレージへの暗号化保存、連携先の真正性確認、通信路のセキュリティレベル確保などの留意点が存在します。

特に、運用者からも安全に隔離され、データを不可視化する「秘匿化領域」の中でデータを加工するなどの高度な技術的対策が、自律性の確保において重要な役割を果たします。

4. 補足資料

本ガイドの対象となる具体的なシステム例として、通信網、電力供給システム、災害影響予測システム、鉄道運行管理システムなどが挙げられ、それぞれの特性に応じた優先すべき要求項目が示されています。

また、サービスの安定供給を阻害する主なリスクとして、日本法と抵触する法体系による影響力、大規模災害、ソフトウェア・ハードウェアへの不正処理の混入、進化しない技術へのロックインなどが整理されています。

これらを正しく理解し、適切に管理するための用語の定義も収録されています。

おわりに

本ガイドの整理を通じて、重要情報を扱うシステム開発・運用において「利便性」と「自律性」をいかに体系的にトレードオフ評価し、具体的な要求に落とし込むかというプロセスの重要性を認識することができました。

特に、単にセキュリティ対策を網羅的に適用するのではなく、システムの特性に応じた問題・リスクと対策の因果関係を樹形図で整理するアプローチや、秘匿化領域の活用といった高度な技術要件についての理解は、今後のシステム設計における大きな学びとなりました。

今後もこのような安全保障や社会インフラに直結する最新の要求策定ガイドラインや技術標準を迅速に吸収し、高信頼なシステムアーキテクチャの設計・構築に貢献できるよう、自身の専門性を高めてまいります。



国家サイバー統括室(NCO)「サイバーセキュリティ 2026(2025 年度年次報告・2026 年度年次計画)」を読み解く:政府方針の最新動向と今後の取り組み

今回は、国家サイバー統括室(NCO)第6回サイバーセキュリティ戦略本部で2026年7月31日に決裁された「サイバーセキュリティ 2026(2025 年度年次報告・2026 年度年次計画)」の内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:国家サイバー統括室(NCO)第6回サイバーセキュリティ戦略本部

出所:サイバーセキュリティ 2026(2025 年度年次報告・2026 年度年次計画)

 

はじめに

2025年度は我が国のサイバーセキュリティ政策において大きな動きがあった年であり、政府は「サイバーセキュリティ戦略」を的確に実施するため、各年度の施策の進捗状況を検証して年次報告をまとめ、次年度の年次計画へ反映しています。

本書は 2025 年度の取組実績と 2026 年度の年次計画を構成要素としており、AI の急速な技術進展などの情勢変化に応じて政府機関が緊密に連携し、機動的な対応を実施することとしています。

第1部 サイバーセキュリティ 2026 のポイント

我が国を取り巻く安全保障環境が戦後最も厳しく複雑になる中、サイバー攻撃の脅威は質・量ともに増大し、国民生活や経済活動、国家安全保障に多大な影響を与えています。

これに対し、政府はサイバー対処能力強化法等の整備や能動的サイバー防御の導入を進め、官民連携エコシステムの形成や国際連携の推進に注力しています。また、AI 性能の高度化を踏まえた「Project YATA-Shield」などを 2026 年度の特に強力に取り組むべき施策に位置づけています。

第2部 昨今の国内外のサイバー空間の情勢について

地政学的緊張を反映し、国家背景が疑われる攻撃グループ(Salt Typhoon 等)による世界的なインフラ標的の活動が深刻化しており、重大な事態への発展リスクをはらんでいます。

国内ではランサムウェア攻撃による大手企業のサービス停止や個人情報流出、証券口座への不正アクセス事案などが相次いで確認されています。

これに対し、日米サイバー対話や日 ASEAN サイバーセキュリティ政策会議などの国際連携、重要インフラ分野や政府機関における防御能力の強化が進められています。

2025 年度の施策は、新たなサイバーセキュリティ戦略が掲げる「深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止」「幅広い主体による社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの向上」「人材・技術に係るエコシステム形成」の 3 つの方向性に沿って着実に進められました。

具体的には、サプライチェーン強化に向けた SCS 評価制度の構築方針の公表、IoT 製品のラベリング制度(JC-STAR)の運用、耐量子計算機暗号(PQC)への移行に向けた検討などの実績が挙げられます。

第3部 特に強力に取り組むべき施策

日本成長戦略においてサイバーセキュリティが分野横断的課題として位置づけられ、官民連携による戦略的投資と安全な製品・サービスの提供を通じた経済成長が目指されています。

また、AI の悪用による攻撃のスピード・規模の増加に対抗するため、脆弱性の発見・修正や重要インフラ事業者等への対応を強化する政府全体のパッケージ「Project YATA-Shield」が取りまとめられました。

第4部 2025年度のサイバーセキュリティ関連施策の取組実績及び今年度の取組

各府省庁が担当する具体的な施策の進捗と計画が詳細に整理されています。

主な取組として、国家サイバー統括室(NCO)へのサイバー脅威情報の集約と分析能力の抜本的向上、政府機関等に対するペネトレーションテストやレッドチームテストを通じた対策水準の点検、地方公共団体や中小企業の対策を支援する「地方版ASMシステム」や「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の展開などが含まれます。

おわりに

本年次計画および取組実績の精読を通じて、能動的サイバー防御の導入や「Project YATA-Shield」をはじめとする、政府全体の機動的なセキュリティ施策の全体像を体系的に整理することができ、国の安全保障政策やガバナンスにおける実務上の要請について理解を深めることができました。

特に、AIの高度化に伴う攻撃の高速化・大規模化に対して、情報の集約・分析機能の強化や実践的な検証手法を通じた多層的な防御体系の構築が、国全体のレジリエンス向上において不可欠であることを再認識いたしました。

今後もこうした国の政策方針や最新の技術・セキュリティ動向を迅速に吸収し、実務における高度なセキュリティ確保とガバナンス強化に貢献できるよう、自身の専門性を継続的に高めてまいります。



国家サイバー統括室(NCO)「重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準」を読み解く:基幹インフラ防護とレジリエンス・任務保証の推進

今回は、国家サイバー統括室(NCO)第6回サイバーセキュリティ戦略本部で2026年7月31日に決裁された「重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準」の内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:国家サイバー統括室(NCO)第6回サイバーセキュリティ戦略本部

出所:重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準

 

本基準は、サイバーセキュリティ基本法に基づき、深刻化するサイバー脅威に対して重要インフラの一層の防護を図ることを目的として定められた施策の統一的な基準です。

第1部 総則

この統一基準は、サイバーセキュリティ基本法に基づき、重要インフラ事業者等におけるサイバーセキュリティの確保に関し、国の行政機関(政府機関)が実施する施策の統一的な基準を定めるものです。

深刻化するサイバー脅威に対し、分野・事業者横断的に講ずべき対策の実施を促進し、政府機関がより積極的な役割を果たすことで重要インフラの一層の防護を図ることを目的としています。

適用範囲は「情報通信」から「郵便」までを含む16分野であり、原則として基幹インフラ事業者もその範囲に含まれます。

本基準は、関係主体の自主的な取組を促進する「行動計画」と相補的な関係にあり、政府機関の施策についてPDCAサイクルを実施することで実効性を確保するスキームとして位置づけられています。また、技術や脅威の環境変化を踏まえ、原則として3年に1度の見直しが行われます。

第2部 政府機関における施策の基準

政府機関は、効果的な施策の実施を図るため、各分野の特性・実情を勘案した「実施計画」を年に1回を目途に策定・更新します。

施策の実施にあたっては、関係省庁間の連携強化に加え、重要インフラ事業者等との信頼関係に基づく緊密な官民連携体制を構築し、リスクベースの考え方に基づく取組を推進します。

重点的に取り組むべき施策として、以下の5つの柱が掲げられています。

第一に「障害対応体制の強化」として、組織統治の一部としての体制整備やサプライチェーン・リスクを踏まえた対応を促進します。

第二に「安全基準等の整備及び浸透」として、自組織のリスクを把握し最適な防護対策を実施できる環境を整備します。

第三に「情報共有体制の強化」として、官民双方向でのコミュニケーションや被害拡大防止に向けた情報の集約・分析を行います。

第四に「リスクマネジメントの活用」として、サービスの継続的提供を阻害するリスクの明確化と管理を推進します。

第五に「防護基盤の強化」として、演習・訓練の促進や人材育成を通じた水準の底上げを図ります。

これらの施策については、国家サイバー統括室と所管省庁が連携して実施状況を把握・分析し、その結果に基づきサイバーセキュリティ戦略本部が評価を行うことで、継続的な改善を図ります。

第3部 安全基準等において規定されるべき事項

所管省庁等が策定する安全基準等において、重要インフラ事業者等が講ずべき対策の基準を示すものです。

単なるサイバー攻撃の防御だけでなく、障害発生時の影響を許容範囲に抑制する「レジリエンス」の確保と、業務を着実に遂行する「任務保証」の考え方を重視しています。

具体的に規定されるべき事項は、総合的なフレームワークで構成されています。

「組織統治」では、経営層のコミットメント、役割・責任の割当て、資源(予算・人材)の確保、サプライチェーン・リスクマネジメントの実施が定められています。

「識別」では、資産管理、脅威・脆弱性情報の収集、任務保証に基づくリスクアセスメントを実施します。

「防御」では、アカウント管理・多要素認証、人材育成、データのバックアップ(オフライン保管等の検討)、ネットワークのセグメント分割、クラウド利用時の責任共有モデルの理解を図ります。

「検知」では、サービス障害に繋がる事象を早期検知するための継続的な監視・分析体制を整備します。

「対応及び復旧」では、サイバーセキュリティを組み入れた事業継続計画(BCP)の策定、インシデントの封じ込め・根絶・復旧プロセスの確立、経営層の意思決定支援を行います。

「技術・脅威の動向等を踏まえた対策」では、AI等の悪用による攻撃の高速化・大規模化に対応したリスクベースの対策を講じます。

本基準は2026年10月1日から施行されます。

おわりに

本基準の精読を通じて、重要インフラ防護における「レジリエンス」と「任務保証」の考え方の重要性を再認識し、組織統治からAI等の最新脅威への対応に至る包括的な管理体系についての理解を深めることができました。

特に、単なる事前防御にとどまらず、障害発生を前提とした復旧体制や官民共有の情報共有体制の構築が、インフラ全体の安全確保において不可欠であることを体系的に学ぶことができました。

今後も国の政策や統一基準の動向を迅速に捉え、実務におけるサイバーセキュリティ対策の強化とガバナンス向上に貢献できるよう、自身の専門性を継続的に高めてまいります。

CISA「BOD 26-04:リスクに基づくセキュリティアップデートの優先順位付け」を読み解く:フロンティアAI時代の動的なリスク評価と修復タイムラインの統合

今回は、Claude MythosなどのフロンティアAIの台頭で、ますます重要性を増すセキュリティアップデート・脆弱性管理に関連して、CISA(米国国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)から公開された強制運用ディレクティブ「BOD 26-04:リスクに基づくセキュリティアップデートの優先順位付け」について、その内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:BOD 26-04: Prioritizing Security Updates Based on Risk | CISA

 

本ディレクティブは、連邦行政機関(FCEB)を対象に、AIの悪用等により増大するサイバー脅威へ迅速に対処するため、リスクに基づいた動的な脆弱性修復プログラムの実施を命じるものです。

1. 背景と目的

悪質なサイバー攻撃者は既知の脆弱性を頻繁に悪用しており、AIの利活用によりパッチ公開から攻撃実施までの猶予期間がさらに短縮することが懸念されています。

このような脅威動向に対応するため、すべてのシステムや脆弱性を一律に扱うのではなく、最高リスクの領域に修復リソースを集中させる戦略への転換が求められています。

本ディレクティブは従来のBOD 19-02およびBOD 22-01を統合・更新・失効させ、連邦政府全体における脆弱性管理の明確化と効率化を図ることを目的としています。

2. 適用範囲と対象システム

本ディレクティブの対象は、連邦情報システムに含まれる全機関のIT資産となっています。

FedRAMP認証環境などのサードパーティホスティング環境については、継続的なモニタリングを通じたコンプライアンス確保が義務付けられています。

なお、調達契約に基づく指示がない限り請負業者(コントラクター)への直接適用は除外されますが、遵守に向けた契約変更の検討が求められています。

3. 主要概念と評価変数

修復の緊急性は、資産の露出状況KEVカタログの掲載状況攻撃自動化の可否、および技術的影響度の4つの変数に基づき動的に判別されます。

資産がインターネット等のパブリックネットワークから認証なしでアクセス可能な「公開資産」であるかどうかの判別が重要な評価軸とされています。

技術的影響度については、悪用によって攻撃者が得る制御権限が部分的影響か全権限(Total Control)かによって定義されています。

4. 段階的実施要件

フェーズ1として、各機関は即座に脆弱性管理方針の改訂、KEVカタログの監視、自動化された状態報告の確立を行わなければなりません。

フェーズ2では、発行から60日以内にCVEデータベースやKEVカタログに連動した継続的な修復プロセスの整備を完了することが求められます。

フェーズ3では、発行から180日以内に動的なタイムラインに基づく修復を実行し、公開資産のタグ付けとCDMダッシュボードを通じた報告態勢を完成させます。

5. 修復タイムラインとSSVCモデル

修復の期限はSSVC(Stakeholder-Specific Vulnerability Categorization)の手法に基づき定義され、最小で3日以内の修復とフォレンジックトライアージュが必要とされます。

リスク水準の低下(公開状態の解除等)やKEVカタログへの追加など、評価変数の変化に応じて動的に期限が短縮または延長される仕組みとなっています。

低リスクと判定された脆弱性については、緊急の対応を保留し、次回のシステムアップグレード時における修復が認められています。

6. CISAの役割と運用方針

CISAはKEVカタログの迅速な更新と維持を行い、Vulnrichmentプログラムを通じて脆弱性メタデータを提供します。

また、サイバーヒジーンスキャニング結果の定期的レポートの提供や、年次のタイムライン再評価、毎年度末の進捗報告を実施します。

技術や攻撃者の手法の進展を踏まえ、さらなる期限短縮の必要性を検証するためのケーススタディ評価も継続的に実施されます。

おわりに

本ディレクティブの精読を通じて、AI技術の進化に伴う攻撃サイクルの加速に対し、従来の固定的な修復方針からリスク駆動型の動的な優先順位付けへと移行することの重要性を深く認識することができました。

特に、SSVCやVulnrichmentプログラムを用いた科学的なリスク評価手法、ならびに3日以内の迅速対応とフォレンジックトライアージュ(優先順位付け影響範囲の特定調査対象の絞り込み)の統合といった先進的なアプローチを体系的に整理できたことは、セキュリティガバナンスと運用態勢の構築における大きな学びとなりました。

今後もこのような米国の最先端の政策動向やガイドラインを積極的に吸収し、最新の脅威環境に適応できる高度な専門性を備えた技術者として成長を続けてまいります。

【概要整理】欧州委員会「最先端AIに関する専門家フォーラム調査結果」を読み解く:フロンティアAIにおける競争力・主権・安全保障の強化

今回は、2026年7月15日に欧州委員会AI Office から公開された、「EUの競争力、主権、安全保障に関する最先端のAI専門家の調査結果」について、その内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:AI Office publishes frontier AI expert findings on EU competitiveness, sovereignty and security | Shaping Europe’s digital future

 

1. 最先端AIに関する専門家フォーラム

2026年4月、欧州AIオフィスはEU国内外のAI開発者、産業界、投資家、研究機関などから100名以上のシニア専門家を招集し、第1回専門家フォーラムを開催しました。

本フォーラムでは、2025年10月に発表された「欧州フロンティアAIイニシアチブ」の一環として、EUの経済、安全保障、社会を形成する戦略的資産である最先端AIにおいて、欧州が卓越性と主権を確保するための戦略的理解を深めることを目的としています。

参加者は、最先端AIの軌道や欧州の現状、研究開発の促進策、市場での成功に必要な条件などについて、チャタムハウスルールに基づき議論を行いました。

2. 最先端AIの軌道と欧州の戦略的地位

最先端AIの能力は、数学、ソフトウェア工学、科学などの分野において、わずか3年ほどの間に基礎的なタスクの処理から人間専門家のレベルへと前例のない速さで進展しています。

今後10年以内には、すべての認知タスクにおいて人間の能力に匹敵、あるいはそれを超える可能性も示唆されています。

一方で、最先端AIの市場は急速に拡大しているものの、収益の大部分は米国を中心とする少数の非欧州系開発者に集中しており、EUの商業的地位は自らの経済規模に比して控えめな状況にあることに言及されています。

インフラ面では、世界のAI計算能力が約7ヶ月で倍増するペースで拡大しており、専門家はEUに対し、自らのGDPシェアに見合う世界全体の15%の計算能力を国内に保有することを目指すべきだと提言しています。

2026年は、欧州が依存を避け、強固な地位を維持するための戦略を決定する決定的な年になるとされています。

3. 欧州の最先端AI能力の構築

欧州が最先端AI能力を構築するための信頼できる道筋は、まず魅力的な市場条件を阻害している構造的障壁を取り除くことにあるとされています。

具体的には、今後2年間の最優先事項となる計算インフラの拡大と安価でクリーンなエネルギーへのアクセスの確保、専用投資手段や資本市場の深化による成長段階の資金不足解消、著作権やGDPRに関する法的不確実性を解消した学習データの法的明確化、そして競争力のある報酬や迅速なビザ手続きを通じた優秀な人材の確保と流出防止の4つが主要な課題として挙げられています。

これらに加え、欧州が主導権を握れる「ハイリスク・ハイリターンな賭け」として、物理的AIやワールドモデル、あるいは「AI版CERN」のような研究機関の設立といった特定領域の選択的支援も推奨されています。

4. あらゆる最先端AIモデルへのアクセス、選択、制御、利益享受能力の強化

最先端AIの開発が海外に集中している現状を受け、欧州は自国内でモデルを開発するだけでなく、いかなる最先端AIモデルに対しても主権を持ってアクセスし、選択し、制御し、そこから利益を享受する能力を強化しなければならないとされています。

専門家は、デジタル主権を技術的鎖国(自給自足)と混同すべきではなく、欧州が持つ市場規模や規制能力、半導体製造装置における独占的地位などの既存のレバレッジ(交渉力)を活用すべきだと指摘しています。

また、同様の制約に直面する英国、カナダ、日本、韓国などの信頼できるパートナーと連合を形成し、交渉力を集約して共通の要求をすることで、共同のレジリエンスを構築することが戦略的な機会となるとされています。

5. 最先端AIのスピードと規模に見合った戦略的行動

最先端AIの進展スピードは公的機関の対応能力を超えるリスクがあるため、戦略的行動は技術の速さと規模に一致させる必要があります。

専門家は、最先端AIを最高政治レベルでの最優先事項とし、政治リーダーが常に最新の情報を得られる仕組みを構築することを推奨しています。

また、能力とリスクの推移を予測する専用の予測機能(foresight)や、緊急時の迅速な対応体制、機関を横断した情報共有構造を事前に構築しておくことが不可欠とされています。

さらに、EUレベルおよび加盟国内で専門的な知見を強化し、公的機関自体が最新の最先端AIツールを積極的に活用して生産性を向上させるべきだと提言されています。

6. 今後のステップ

AIオフィスは、専門家によるこれらの提言を優先順位に従って整理し、他の機関と協力して実施に移すとされています。

専門家フォーラムによる対話は今後も継続され、戦略的行動やイニシアチブの更新状況については随時公表される予定となっています。

おわりに

本調査結果の精読を通じて、フロンティアAIが世界的な影響を強める中、欧州が直面する戦略的地位やインフラ・資金・法制度面の課題、そしてデジタル主権を確立するための具体的な行動ロードマップについて理解を得ることができました。

特に、単なる自給自足を目指すのではなく、国際的なパートナーシップや市場レバレッジを活用しながら主権的な制御能力を高めるという視点は、グローバルなAIガバナンスと安全保障を考える上で非常に大きな学びとなりました。

今後も国際的なAI政策や技術標準の最新動向を迅速に捉え、実務におけるAIセーフティとガバナンスの向上に貢献できるよう、自身の専門性を継続的に高めてまいります。



国家サイバー統括室(NCO)「サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会」を読み解く:能動的サイバー防御と官民連携の推進態勢

今回は、2026年7月22日に国家サイバー統括室(NCO)主催で開催された「サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会」の資料について、各章の主要な論点を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会を開催
出所:資料1 サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会

1. サイバー攻撃の情勢①

サイバー攻撃は巧妙化および深刻化の一途をたどっており、関連通信数や被害数は質と量の両面で増大しています。

従来の公開サーバへの攻撃やIT系システムの侵害に加え、近年では有事に備えた重要インフラ等への侵入が確認されています。

ゼロデイ脆弱性の積極的な活用や「システム内寄生戦術(Living-off-the-Land)」などの高度な潜伏能力により、インフラ機能停止の脅威が高まっていることが危惧されています。

2. サイバー攻撃の情勢②

国内においても、政府機関や重要インフラ事業者、その他の事業者に対し、情報漏えいやシステム障害を引き起こすサイバー攻撃事案が相次いで発生しています。

具体的な事例として、NISC(当時)やJAXAにおけるメールデータや共同業務情報の漏えいの可能性、JALや三菱UFJ銀行などのシステム障害、名古屋港のコンテナターミナル停止、大阪急性期・総合医療センターの電子カルテ障害、さらにはKADOKAWAグループのサービス停止および情報漏えいなどが報告されています。

3. 基本的なサイバーセキュリティ対策の徹底

不正アクセス禁止法違反の検挙件数のうち約9割がID・パスワードの悪用であることから、基本的な対策の徹底が強く求められています。

パスワードを長く複雑にして使い回さないことや、多要素認証およびパスキーの設定といった対策が不可欠であり、NCO(国家サイバー統括室)やIPAによる注意喚起が実施されています。

4. サイバー攻撃の情勢③(国家を背景とするサイバー攻撃)

国家を背景とする高度なサイバー攻撃グループの存在が確認されており、国民生活や国家安全保障に対する重大な懸念となっています。

国家を背景とする「ソルトタイフーン」や「ボルトタイフーン」は、世界中の通信、エネルギー、水道などの重要インフラへの侵入を行い、有事における機能不全を念頭に置いた長期間の潜伏(pre-positioning)を実施しているとされています。

また、「ミラーフェイス」は我が国の安全保障や先端技術に係る情報窃取を目的として活動しているほか、特定の国家へのサイバー攻撃や「トレイダートレイター」による暗号資産窃取事案が発生しています。

5. サイバー対処能力強化法等 全体イメージ

国民生活や経済活動の基盤、ならびに国家および国民の安全を守るため、能動的なサイバー防御を実施する体制の整備が進められています。

官民の情報共有による未然防止と対処支援の強化を図る法整備に加え、攻撃サーバ検知のため明確な法的根拠に基づき通信情報を利用することが盛り込まれています。

さらに、確認された攻撃サーバ等に対して必要に応じ無害化措置を実施する体制の構築が進められています。

6. 官民連携の強化

政府は、基幹インフラ事業者がサイバー攻撃を受けた際の情報共有や、政府から民間への対処支援等の取組を強化しています。

内閣総理大臣を長とし、関係行政機関の長や同意を得た民間事業者等で構成される「情報共有及び対策に関する協議会」を設置し、守秘義務を伴う機微な情報の共有を可能にする枠組みが整理されています。

あわせて、特定重要電子計算機に係る脆弱性対応の強化も図られています。

7. 協議会の運営形態のイメージ

協議会での情報共有は、情報の機微度や内容に応じて「1対1」「ワーキンググループ」「セミナー」「新システム上でのコミュニケーション」「活動報告・交流等」の5つの枠組みを活用して柔軟に運用されます。

特に新システム上においては、脅威分析や検知ルールなどの双方向によるやり取りが想定されています。

8. サイバーセキュリティ戦略の全体像

今後5年を念頭に、国が対策の要となり官民一体で推進する諸施策の目標が示されています。

従来の5つの基本原則を堅持しつつ、「深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止」「幅広い主体による社会全体のレジリエンス向上」「人材・技術に係るエコシステム形成」の3方向で施策の強化が図られます。

9. 重要インフラ統一基準(案)

重要インフラ事業者が講ずべき基本的な対策の徹底を図るため、政府機関の施策についての統一基準が新たに作成されます。

これに基づき各分野で実施計画を策定し、PDCAサイクルを通じて実効性を確保する運用が定められています。

具体的には、「閉域網だから安全」という従来の発想の刷新、サプライチェーン・リスクへの対応、およびAIの悪用リスクに備えた対策の組み込みが重要なポイントとして挙げられています。

10. サイバー攻撃時の報告様式の統一について

被害組織の報告負担軽減を図るため、特に報告件数が多いDDoS攻撃やランサムウェア事案について、関係政府機関(所管省庁、個人情報保護委員会、警察、NCO)に対する報告様式が令和7年10月1日から統一されます。

さらに、報告窓口の一元化に向けた調整も並行して進められています。

11. サイバーセキュリティ人材フレームワーク2026

サイバー人材の確保および育成を効果的に推進するため、求められる役割や技能が13の役割と4段階のレベルで体系的に整理されました。

これにより人材の「見える化」を推進し、採用・育成の適正化や教育訓練におけるミスマッチの解消を図る方針が示されています。

12. AI技術の進展・普及に伴うサイバー脅威への対応

AIの活用に伴い、サイバー攻撃のスピードや規模が劇的に増加し、攻撃者優位の環境が助長される懸念が生じています。

これに対し、「AIを活用したサイバーセキュリティ確保(AI for Security)」と「AIに係る安全性確保(Security for AI)」の両面から、総合的な施策の具体化が進められています。

13. Project YATA-Shield

AIを悪用したサイバー攻撃に対抗するための具体的な対策パッケージとして、「Project YATA-Shield」が公表されました。

高性能AIを活用した脆弱性チェックの実施、15分野における官民連携枠組みの構築、ソフトウェアベンダーへの「セキュア・バイ・デザイン」原則に基づく取組の要請、およびAISI(AIセーフティ・インスティテュート)による技術支援などが盛り込まれています。

14. 施策の実施状況:重要インフラ事業者等への取組

「Project YATA-Shield」の取りまとめを受け、金融、経済産業、総務、厚生労働、国土交通などの各分野において取組が拡大しています。

AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策強化に関し、官民連携会議や意見交換が精力的に実施されています。

参考資料の要約

従来の対策だけでは検知を回避する高度な攻撃に対し、侵入痕跡を積極的に探索する「脅威ハンティング」の有効性が示されており、組織の能力に応じた段階的な導入が推奨されています。

また、フロンティアAIによる脅威変化に対し、金融機関等への短期的な対応として、経営トップのリーダーシップによる技術負債の解消、人的リソースの追加、パッチ適用の迅速化、および緊急時のシステム停止への備えが要請されています。

さらに、G7サミットにおいても、AIによる攻撃の自動化に対応するためのサイバーセキュリティ原則の徹底や、重大な脆弱性に対するパッチ適用の優先順位付けの重要性が強調されています。

おわりに

本意見交換会資料の整理を通じて、能動的サイバー防御の法的・組織的枠組みの具体化や、AI技術の進展に伴うセキュリティ対策の急速な変化について体系的に理解を深めることができました。

特に、官民情報共有協議会の設置や報告様式の統一といった実務的な連携態勢の強化、そして「Project YATA-Shield」に代表されるAI時代に対応した多層的な安全確保の方向性を理解できたことは、大きな学びとなりました。

今後も国の政策動向や高度化する脅威対策に関する最新知見を精力的に吸収し、実務におけるサイバーセキュリティの向上とガバナンス強化に貢献できるよう、専門性の研鑽と成長を重ねてまいります。



AISI「AI ロボティクスに関するセーフティ評価観点ガイド」を読み解く:物理・心理・社会的リスクと総合的評価アプローチ

今回は、2026年7月23日にAIセーフティ・インスティテュート(AISI)から公開された「AI ロボティクスに関するセーフティ評価観点ガイド」の内容を整理し、自身の学びとしてまとめました。

出所:AIロボティクスに関するセーフティ評価観点ガイドの公開 - Japan AISI

 

本書は、事業者がAIロボットの開発・提供・運用を安全に行うための評価観点を示すことを目的としたガイドラインです。

第1章 背景・目的

近年、ロボティクス分野ではAIの応用が急速に拡大しており、特にサービスロボットや協働ロボットにおいて、認知・判断・行動という知的処理を担うAIの役割が不可欠となっています。

一方で、AIの判断の妥当性や利用者への心理的影響といった新たな懸念が浮上しており、従来の物理的な機能安全に、AI特有のリスクに対する「AIセーフティ評価」を加えることが喫緊の課題とされています。

本書は、事業者がAIロボットの開発・提供・運用を安全に行うための評価観点を示すことを目的とされており、主な対象はAI開発者や提供者です。人間と空間を共有する具体的なユースケース(商品搬送や配送ロボット等)を想定したリビングドキュメントとして位置づけられています。

第2章 AI 利活用・セーフティの動向

技術面では、大規模言語モデル(LLM)や視覚言語行動モデル(VLA)などのマルチモーダル生成AIの導入が進み、未知の環境で自律的に行動するフィジカルAIやヒューマノイドロボットへの期待が高まっています。

市場面では、国内外でサービスロボット市場が拡大しており、2050年には国内で6兆円、世界で90兆円規模に達すると推計されています。

これに伴い、各国で政策や規制の整備が進んでおり、日本ではAISIの設立やAI事業者ガイドラインの策定、欧州ではEU AI法、米国ではAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)など、リスクベースのアプローチによる信頼性の確保と国際標準化の議論が活発化しています。

第3章 AI ロボットのリスクと要因

AIロボットのリスクは、従来の機械安全の枠組みでは捉えきれないため、「物理的リスク」「心理的リスク」「社会的リスク」の三類型で整理されます。

物理的リスクはAIの認識不確実性に起因する衝突や誤動作、心理的リスクは不適切な対話によるストレスや過度な依存、社会的リスクはプライバシー侵害や差別の助長などを指します。

これらの発生要因は、「AI」「ロボット」「人間」「社会」の四つの側面から分析されます。

また、機械安全の原則に基づき、AIを安全関連系に導入する場合のポリシー(1st~3rdポリシー)が提示されており、物理的な安全性に加え、心理的・社会的な側面を含めた総合的な評価の必要性が強調されています。

第4章 AI ロボティクスに関するセーフティ評価観点

本章では、AIロボティクスと実世界環境の関係を踏まえ、設計から運用に至る各フェーズで参照すべき具体的な評価観点が示されています。

物理的側面としては、人への危害を防ぐ「物理的安全性」、環境に応じた「運用合理性」、急激な挙動変化を防ぐ「安定性」が重視されます。

心理的・社会的側面においては、状況に即した「認知・判断の妥当性」や「インタラクションの適切性」に加え、「プライバシー保護」「説明可能性」「検証可能性」が求められます。

また、共通観点としてロボットの不確実性を補完するための「人間の適切な介在」が不可欠とされています。

評価手法としては、SafeML等を用いたリスク・安全分析、開発早期のシミュレーション(シフトレフト)、実運用環境での実証、そしてインシデント分析を含む事後解析を組み合わせることが推奨されています。

第5章 今後の課題と方向性

AIロボティクスは急速に進展しており、技術や環境の変化に応じて評価観点を随時見直す必要があります。

日本政府の「AIロボティクス戦略」に基づき、短期的には「点検」「搬送」「清掃」などの実装可能性の高い8つの代表的タスクを優先し、実証実験を通じて知見を蓄積していく方針とされています。

本書は、これら個別のユースケースに応じたテーラリング(調整)を経て活用されることで、「信頼性のあるAIロボティクス」の社会実装と普及を後押しすることを目指すとされています。

おわりに

本ガイドの精読を通じて、AIロボティクスにおけるセーフティ評価が従来の物理的な機械安全にとどまらず、AI特有の不確実性に起因する心理的・社会的リスクまでを含めた包括的な評価軸を必要としていることを体系的に理解することができました。

特に、設計から運用に至るライフサイクル全体での評価観点や、SafeMLやシミュレーションを活用した開発早期でのリスク対策(シフトレフト)、ならびに人間の適切な介在の必要性を深く把握できたことは、今後のシステム設計やガバナンス検討における大きな学びとなりました。

今後もAIおよびロボティクス領域の技術進化や政策・基準の動向を迅速に捉え、安全で信頼されるシステムの実装とガバナンス強化に貢献できるよう、自身の専門性を継続的に高めてまいります。