今回は、2026年7月22日に国家サイバー統括室(NCO)主催で開催された「サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会」の資料について、各章の主要な論点を整理し、自身の学びとしてまとめました。
出所:サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会を開催
出所:資料1 サイバー対処能力強化法の施行に向けた官民連携強化のための意見交換会
- 1. サイバー攻撃の情勢①
- 2. サイバー攻撃の情勢②
- 3. 基本的なサイバーセキュリティ対策の徹底
- 4. サイバー攻撃の情勢③(国家を背景とするサイバー攻撃)
- 5. サイバー対処能力強化法等 全体イメージ
- 6. 官民連携の強化
- 7. 協議会の運営形態のイメージ
- 8. サイバーセキュリティ戦略の全体像
- 9. 重要インフラ統一基準(案)
- 10. サイバー攻撃時の報告様式の統一について
- 11. サイバーセキュリティ人材フレームワーク2026
- 12. AI技術の進展・普及に伴うサイバー脅威への対応
- 13. Project YATA-Shield
- 14. 施策の実施状況:重要インフラ事業者等への取組
- 参考資料の要約
- おわりに
1. サイバー攻撃の情勢①
サイバー攻撃は巧妙化および深刻化の一途をたどっており、関連通信数や被害数は質と量の両面で増大しています。
従来の公開サーバへの攻撃やIT系システムの侵害に加え、近年では有事に備えた重要インフラ等への侵入が確認されています。
ゼロデイ脆弱性の積極的な活用や「システム内寄生戦術(Living-off-the-Land)」などの高度な潜伏能力により、インフラ機能停止の脅威が高まっていることが危惧されています。
2. サイバー攻撃の情勢②
国内においても、政府機関や重要インフラ事業者、その他の事業者に対し、情報漏えいやシステム障害を引き起こすサイバー攻撃事案が相次いで発生しています。
具体的な事例として、NISC(当時)やJAXAにおけるメールデータや共同業務情報の漏えいの可能性、JALや三菱UFJ銀行などのシステム障害、名古屋港のコンテナターミナル停止、大阪急性期・総合医療センターの電子カルテ障害、さらにはKADOKAWAグループのサービス停止および情報漏えいなどが報告されています。
3. 基本的なサイバーセキュリティ対策の徹底
不正アクセス禁止法違反の検挙件数のうち約9割がID・パスワードの悪用であることから、基本的な対策の徹底が強く求められています。
パスワードを長く複雑にして使い回さないことや、多要素認証およびパスキーの設定といった対策が不可欠であり、NCO(国家サイバー統括室)やIPAによる注意喚起が実施されています。
4. サイバー攻撃の情勢③(国家を背景とするサイバー攻撃)
国家を背景とする高度なサイバー攻撃グループの存在が確認されており、国民生活や国家安全保障に対する重大な懸念となっています。
国家を背景とする「ソルトタイフーン」や「ボルトタイフーン」は、世界中の通信、エネルギー、水道などの重要インフラへの侵入を行い、有事における機能不全を念頭に置いた長期間の潜伏(pre-positioning)を実施しているとされています。
また、「ミラーフェイス」は我が国の安全保障や先端技術に係る情報窃取を目的として活動しているほか、特定の国家へのサイバー攻撃や「トレイダートレイター」による暗号資産窃取事案が発生しています。
5. サイバー対処能力強化法等 全体イメージ
国民生活や経済活動の基盤、ならびに国家および国民の安全を守るため、能動的なサイバー防御を実施する体制の整備が進められています。
官民の情報共有による未然防止と対処支援の強化を図る法整備に加え、攻撃サーバ検知のため明確な法的根拠に基づき通信情報を利用することが盛り込まれています。
さらに、確認された攻撃サーバ等に対して必要に応じ無害化措置を実施する体制の構築が進められています。
6. 官民連携の強化
政府は、基幹インフラ事業者がサイバー攻撃を受けた際の情報共有や、政府から民間への対処支援等の取組を強化しています。
内閣総理大臣を長とし、関係行政機関の長や同意を得た民間事業者等で構成される「情報共有及び対策に関する協議会」を設置し、守秘義務を伴う機微な情報の共有を可能にする枠組みが整理されています。
あわせて、特定重要電子計算機に係る脆弱性対応の強化も図られています。
7. 協議会の運営形態のイメージ
協議会での情報共有は、情報の機微度や内容に応じて「1対1」「ワーキンググループ」「セミナー」「新システム上でのコミュニケーション」「活動報告・交流等」の5つの枠組みを活用して柔軟に運用されます。
特に新システム上においては、脅威分析や検知ルールなどの双方向によるやり取りが想定されています。
8. サイバーセキュリティ戦略の全体像
今後5年を念頭に、国が対策の要となり官民一体で推進する諸施策の目標が示されています。
従来の5つの基本原則を堅持しつつ、「深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止」「幅広い主体による社会全体のレジリエンス向上」「人材・技術に係るエコシステム形成」の3方向で施策の強化が図られます。
9. 重要インフラ統一基準(案)
重要インフラ事業者が講ずべき基本的な対策の徹底を図るため、政府機関の施策についての統一基準が新たに作成されます。
これに基づき各分野で実施計画を策定し、PDCAサイクルを通じて実効性を確保する運用が定められています。
具体的には、「閉域網だから安全」という従来の発想の刷新、サプライチェーン・リスクへの対応、およびAIの悪用リスクに備えた対策の組み込みが重要なポイントとして挙げられています。
10. サイバー攻撃時の報告様式の統一について
被害組織の報告負担軽減を図るため、特に報告件数が多いDDoS攻撃やランサムウェア事案について、関係政府機関(所管省庁、個人情報保護委員会、警察、NCO)に対する報告様式が令和7年10月1日から統一されます。
さらに、報告窓口の一元化に向けた調整も並行して進められています。
11. サイバーセキュリティ人材フレームワーク2026
サイバー人材の確保および育成を効果的に推進するため、求められる役割や技能が13の役割と4段階のレベルで体系的に整理されました。
これにより人材の「見える化」を推進し、採用・育成の適正化や教育訓練におけるミスマッチの解消を図る方針が示されています。
12. AI技術の進展・普及に伴うサイバー脅威への対応
AIの活用に伴い、サイバー攻撃のスピードや規模が劇的に増加し、攻撃者優位の環境が助長される懸念が生じています。
これに対し、「AIを活用したサイバーセキュリティ確保(AI for Security)」と「AIに係る安全性確保(Security for AI)」の両面から、総合的な施策の具体化が進められています。
13. Project YATA-Shield
AIを悪用したサイバー攻撃に対抗するための具体的な対策パッケージとして、「Project YATA-Shield」が公表されました。
高性能AIを活用した脆弱性チェックの実施、15分野における官民連携枠組みの構築、ソフトウェアベンダーへの「セキュア・バイ・デザイン」原則に基づく取組の要請、およびAISI(AIセーフティ・インスティテュート)による技術支援などが盛り込まれています。
14. 施策の実施状況:重要インフラ事業者等への取組
「Project YATA-Shield」の取りまとめを受け、金融、経済産業、総務、厚生労働、国土交通などの各分野において取組が拡大しています。
AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策強化に関し、官民連携会議や意見交換が精力的に実施されています。
参考資料の要約
従来の対策だけでは検知を回避する高度な攻撃に対し、侵入痕跡を積極的に探索する「脅威ハンティング」の有効性が示されており、組織の能力に応じた段階的な導入が推奨されています。
また、フロンティアAIによる脅威変化に対し、金融機関等への短期的な対応として、経営トップのリーダーシップによる技術負債の解消、人的リソースの追加、パッチ適用の迅速化、および緊急時のシステム停止への備えが要請されています。
さらに、G7サミットにおいても、AIによる攻撃の自動化に対応するためのサイバーセキュリティ原則の徹底や、重大な脆弱性に対するパッチ適用の優先順位付けの重要性が強調されています。
おわりに
本意見交換会資料の整理を通じて、能動的サイバー防御の法的・組織的枠組みの具体化や、AI技術の進展に伴うセキュリティ対策の急速な変化について体系的に理解を深めることができました。
特に、官民情報共有協議会の設置や報告様式の統一といった実務的な連携態勢の強化、そして「Project YATA-Shield」に代表されるAI時代に対応した多層的な安全確保の方向性を理解できたことは、大きな学びとなりました。
今後も国の政策動向や高度化する脅威対策に関する最新知見を精力的に吸収し、実務におけるサイバーセキュリティの向上とガバナンス強化に貢献できるよう、専門性の研鑽と成長を重ねてまいります。
